「リブセンス(村上太一)」を読んで、ひと筆 (下)

ー25歳、最年少で一部上場ー

写真は足利フラワーパーク 2021.3
藤の花の見事なライトアップ
人の熱気で沸き上がっている
薄暮、ライトアップが始まる
雨が降っているような藤棚
陽のある午後

「リブセンス」(上坂徹)を読んで、ひと筆
   ―青年起業家『村上太一』(下)―
      柳田  節 (平成25年)
 
  
 一部上場を果たした村上青年は、「ごく普通の二十五歳の青年」である。フリーランスのライター、上阪徹氏が著書『リブセンス』の中で、何度か指摘している。巨額の資産を得たはずの彼は、「今でも学生が住んでいるようなマンションで一人暮らしをしており、部屋には冷蔵庫もない」という。
 これまでの起業家と少し違うところは、自分が生きている意味を、自分の成功することではなく人の役に立つことに求めたことだ。物・金や地位名誉ではなく、精神的な豊かさ、つまり、『徳』を求めている。
「事業がなかなか軌道に乗らなかった時期に、どうして自分は会社をやっているのか、ひたすら考えました。自分と向き合って、人生とは何かを突き詰めないと先に進まない気がしたんです」
 村上青年は、起業してすぐ、何かが不足していると感じた。自分が「どうしてそれをやりたいのか」を言葉に表わせないことに気がついた。あるとき、
「人に喜んでもらうことが子供のころから好きでした。だから、このサービスがあってよかったって言われるようなものを作りたい。心の底からそう思ったんです」
 そのために会社をやっているのだと、自分の中で、「腑に落ちた」のだという。どうしたら自分のやりたいことを見つけ出せたのか。「過去を振り返って、自分がどんなとき楽しかったのか、うれしかったのかをひたすら考えました。そこにヒントがあると思っていた」と彼は言う。後にアップルの創業者スティーブ・ジョブスの『やりたいことを見つけなさい、そのためのヒントはあなたが歩んできた道を掘起こせば絶対にある』という言葉もすぐに納得している。つまり、それは「自分の感性を肯定する」ことなのだ。
 さらに遡ると、村上青年が起業を決意する直前の高校二年に、自分の中である変化があったという。それは「自分はどうして生きているんだろう」と生きる意味を求めて悶々とした時期だった。それが自分のやりたいことにつながってくる。自分の意識していない「生きる意味」に気づかされることなのだ。経営者だった祖父が身近にいたこともあって高校三年から起業の準備を始めることになる。社名の『リブセンス』はLIVE=生きる、SENSE=意味であり、直訳すれば「生きる意味」なのである。
「やがて気がついた。人は幸せになるために生きている。自分にとっての幸せは、相手に喜んでもらうこと、人を幸せにすることで生まれてくるものなのだ」と。「生きる意味」がさらに「人の役に立つことをする」に結びついたとき、初めて言葉になった。それが経営理念「人を幸せにして自分も幸せになる」だった。
「人を幸せにしたい」という言葉は美しいが、ともすると偽善にもなりかねない。村上青年はようやく給料が二十万円になったころ、バングラディシュの子供の里親になっている。東日本大震災の時も寄付をした。しかし、こうも言っている。「寄付はやっぱり自分のためなんだ」「自己実現として寄付をする」
 事の本質を彼はよく知っている。「自己犠牲的ではなく自己実現でなければいけないんです。実際、人を幸せにして自分が幸せになるのは、自分のためだからです」と言う。
 
”幸せから生まれる幸せ“という経営理念には、もう一つの側面がある。「人の幸せのためだから人は頑張れる」のだという。自分たちの働く動機について考えるとき、村上青年は、米国のハーバードなどの有名大学の卒業生が率先して「給料ではなく『やりがい』を選択している」という話に、自分たちと全く同じだと驚いている。
 また、「お金のために人は働かない。それはもはや大きな流れ」だと、彼が「そう確信するに至った本」がある。米国のダニエル・ピンクは、三つの「動機(モチベーション)」について書いている。(『モチベーション3.0』講談社)1原始時代、自分の生存を守るために行動していた。2工業化社会になって金銭や懲罰という飴と鞭で働かせられていた。3自律性、熟達、目的の三つ。3-1自分で決め好きなように仕事をすること3-2自分から積極的により良いものを求めていくこと3-3自分の人生の意義を問うこと。自分の動機の湧き方を考えるとぴったり合っていたという。
 昨今、青年たちの働く動機に明らかな変化が現れている。
 結局、彼等は金でもなく、地位でもなく、豊かな精神性といったものを求め始めている。それは人として自然なことである。
 世の中は『ナチュラル』に帰ろうとしている。人間が造った現代文明の中で見失ったものを、大昔(縄文時代)の中に取り戻そうと、ナチュラルな世界へと向かっている、私はそう思う。

柳田節 随筆作品集 & 散策

― 読んで & 歩いて & 書いて & 撮る ―   随筆春秋 事務局   「昭和の日々」(2008年刊)  (ダイハツミゼット、防空壕、肥溜め、南極調査船「宗谷」、オウム事件の本質…)

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